研究の紹介

Research

性同一性障害研究グループ

性同一性障害/性別違和は、日本の精神科医療において比較的新しいテーマです。この分野に取り組んでいる医療機関は非常に数が少なく、当教室のユニークな研究分野となっています。岡山大学病院は西日本最大級のセンター医療機関として産科婦人科、泌尿器科、形成外科と連携しながら1999年から包括的治療を提供していて、2019年末までに2600名を越える方が受診されました。この豊富な受診者の協力の下、適切な治療法の評価・開発のみならず、学校制度や就業環境、社会文化背景からの影響なども視野に入れた臨床研究活動を行っています。例えば、北米、ヨーロッパの大部分、東南アジアなどでは男性から女性への移行を望む例(male to female: MTF)が、女性から男性(female to male: FTM)の例を大きく上回るとされてきましたが、我が国ではMTF例の2倍近い FTM例が受診していることが知られています。受診行動に社会の差異が影響していることは明らかで、この謎を解き明かすことで、我が国独自のジェンダーに関連する文化社会背景について新たな視点をもたらす可能性があると考えています。
また、身体の性との脳の性の不一致という観点から、性同一性障害/性別違和の発症原因には生物学的背景があると予想されていますが、傍証はあるものの直接の原因や発症機序は未だ不明です。患者さんの協力の下、この生物学的機序の研究を行っています。これまでに、最も有名な“エストロゲンシャワー仮説”がどうも間違っているらしいことを見いだしました。その一方で、性同一性障害の同胞例や双生児例を発見し、遺伝的影響の多いことをすでに報告しています。今後も各種遺伝子解析の手法などを駆使しながら、今後も“性の自己認知”の脳内メカニズムという大きなテーマに取り組んでいく予定です。